辞林 現代書道の父 比田井天来/3 研究に没頭、俯仰法確立/北海道(毎日新聞より)

比田井天来(ひだいてんらい)が生涯で成し遂げた大きな業績の一つに、俯仰法(ふぎょうほう)と名付けた筆法の発見がある。シリーズ第3回は、小原道城書道美術館(札幌市中央区北2西2)所蔵作品の中から、古典作品の徹底した探求によって天来が獲得した筆遣いに注目したい。

  天来が俯仰法を発見したのは43歳だった1914(大正3)年。それまで師匠の日下部鳴鶴(めいかく)が中国の楊守敬(ようしゅけい)から伝えられた廻腕(かいわん)法を、天来も用いていた。しかし、筆を直立させる廻腕法では中国唐時代の木簡(もっかん)や碑文にある美しい線を書くことができないと考え、天来は古来の用筆について研究を始めた。

 俯仰法は、馬やシカの剛毛筆を使い、紙に対して筆を自然に斜に構える、横線は右側へ、縦線は手前方向に書き進むのに従って倒しながら運筆する用筆法。この筆遣いによって、起筆、収筆の三角形、はねの高さなど古典作品にある形が表現できることに気付いた。

 さらに、この筆法を確立するため天来は45歳から2年間、家族と離れ、鎌倉の建長寺内にこもり、研究に没頭。ついに古法の筆意を悟ったとされる。

 作品は晩唐(9世紀ごろ)の詩人、唐彦謙(とうげんけん)の漢詩で、出典は全唐詩。月明かりに照らされた美しい風景を詠んだ詩の一節を自然なリズムの行書体で書き上げている。俯仰法を発見して全盛期を迎えた時期の作品で、自信にあふれた堂々とした線が印象的だ。

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